【社長コラム Vol. 7】なぜ誠実な人ほど損をする業界になってしまうのか
〜営業KPI、短期利益、そして優秀な人材が去っていく構造的病理〜
Agent Connect株式会社 代表取締役 冨谷皐介
はじめに:現場で葛藤する「誠実な営業マン」たちの悲痛な声
皆様、こんにちは。Agent Connect代表の冨谷です。
3月から始まったこのコラムでは、私自身が約2億円の被害を受けた「かぼちゃの馬車事件」の原体験をはじめ、不動産業界が抱える情報の非対称性、良いエージェントの見極め方、投資判断のリスク、そして金融機関・不動産会社・消費者の理想的な社会関係についてお話ししてきました。
これまでの連載は、主に「消費者(購入者・投資家)」の視点に立って、いかに悪質な取引から身を守るかというテーマが中心でした。しかし、私が被害者救済の支援活動(一般社団法人ReBORNs)を行い、そしてAgent Connectを立ち上げて全国のエージェント(不動産営業担当者)の方々と対話を重ねる中で、強く実感しているもう一つの切実な現実があります。
それは、「現場で働く不動産営業マン自身もまた、業界の歪んだ構造に苦しめられている」ということです。

「本当はお客様のために『この物件はやめた方がいい』と言いたいのに、今月のノルマがあるから言えない」 「リスクを隠して強引に売りつける同僚が社内で表彰され、お客様に誠実に向き合う自分が『稼げない営業』と扱われる」
多くのエージェントと接する中で、顧客に誠実でありたいという思いと、売上や成約を求められる現実との間で葛藤しているという話を耳にすることがあります。
なぜ、お客様の幸せを願う誠実な人ほど損をし、業界を去らざるを得なくなってしまうのか。今回は、不動産業界の内側に潜む「営業KPIと短期利益」の構造問題に切り込み、エージェントの皆様と共にこの業界の未来を考えたいと思います。
構造的病理①:「月次KPI(短期利益)」が壊す長期の信頼
誠実な営業マンが追い詰められる最大の原因は、多くの不動産会社における「単一的な営業KPI(目標管理指標)の設計」にあります。
不動産は、一生に一度、あるいは数十年に一度という超長期的な買い物です。本来であれば、購入後の生活や長期的な資産形成まで見据え、数か月、時には数年単位でお客様に伴走しながら信頼関係を築いていくことが求められるはずです。
しかし、不動産会社の営業現場では、『売上額』や『成約件数』といった短期的な成果指標が重視されるケースがあります。
この構造下では、お客様の将来を思い、「今のタイミングでの購入はリスクが高すぎます。一度立ち止まりましょう」と誠実なアドバイスをした営業マンは、今月の数字が「ゼロ」になり、社内では「なぜ詰めきれなかったのか」と叱責されることになります。 一方で、物件の隠れたリスクやデメリットには触れず、巧みなトークで不安を煽り、今月中に強引に契約を迫る営業マンが「優秀な社員」として高評価とインセンティブを得る。
顧客の長期的な幸せと、会社の短期的なKPIが完全に「逆方向」を向いている。この矛盾は、誠実な営業担当者ほど葛藤を抱え、短期的な成果を優先する行動へと傾きやすくなる一因だと私は考えています。
構造的病理②:「物件起点」の激戦が生む、不毛なハイスピードレース

この短期利益至上主義をさらに加速させているのが、これまでのコラムでも指摘してきた「物件起点」の集客構造です。
従来のポータルサイトに掲載された「物件情報」を目当てに問い合わせてくるお客様は、担当する営業マン個人の人柄や専門性を買って集まってきたわけではありません。当然、同じ物件に対して他社からも問い合わせが入っている可能性が高く、現場は常に「他社に取られる前に、いかに早く契約させるか」という極限の奪い合いを強いられます。
顧客のライフプランをじっくり聞いて深く理解したいと願う誠実な営業マンほど、この不毛なハイスピードレースについていけず疲弊します。時間をかけて丁寧に顧客に向き合おうとすればするほど、目先の件数をこなす営業に競負けてしまう。
短期的な成約を重視する営業が評価されやすくなる一方で、顧客と時間をかけて向き合うエージェントの価値が、社内評価に十分反映されにくいという問題が生じます。
構造的病理③:良い営業が傷つき、業界を去っていく悪循環
「真面目な人間が馬鹿を見、強引で不誠実な人間が評価される」。 この構造的病理がもたらす結末は明確です。志を持った優秀で誠実な人材が次々と嫌気がさして離職し、業界全体の質が低下していくという悲惨なスパイラルです。
世間に根強く残る「不動産屋は怖い」「強引に買わされる」という不信感は、現場の個人のモラルが低いからだけではありません。「不誠実でなければ生き残りにくい評価構造」が、現場の人間をそうさせているのです。
『かぼちゃの馬車事件』の教訓:真の再発防止に必要な視点とは
私自身が巻き込まれた『かぼちゃの馬車事件』でも、販売や融資の現場で数多くの不正・不適切な行為が行われました。もちろん、不正行為そのものの責任が曖昧になることがあってはいけません。一方で、個人のモラルだけを問題にして終われば、同じ問題が別の場所で繰り返される可能性があります。組織が何を成果として評価し、どのような行動にインセンティブを与えているのか。再発防止のためには、個人の責任と同時に、組織の評価構造にも目を向ける必要があると私は考えています。
解決の糸口:評価軸の転換——誠実さが「最大の強み」になる仕組み
では、どうすれば誠実なエージェントが報われ、誇りを持って働き続けられる業界に変えられるのでしょうか。 その答えは、「営業担当者の評価軸そのものを変えること」です。
単発の売上金額や契約スピードだけで人を評価するのではなく、
実際の利用者による評価やレビュー
保有する資格や専門知識、得意分野における「ノウハウや実績」
購入後も顧客と繋がり続け、次の相談や紹介(リピート)に繋がっているかという「長期的な関係性」
これらを客観的かつ透明に可視化する仕組みが必要です。
売ったら終わりの「狩猟型」の営業から、自らの専門性と誠実さで顧客と繋がり続ける「農耕型(伴走型)」のエージェントへ。 評価の仕組みさえ正しく整えば、誠実であることは「損」ではなく、むしろ競合他社に差をつける「最大の強み」へと変わります。顧客を騙す必要がなくなり、自分の仕事に誇りを持ちながら、安定して成果を上げ続けられる環境が生まれるのです。
おわりに:現場で悩み、闘うすべてのエージェントの皆様へ
不動産仲介という仕事は、本来、人の人生における最も大きな決断に寄り添い、不安を取り除き、理想の未来を共に創り上げる、最高に尊く誇り高い職業のはずです。
だからこそ、今、毎月のノルマと顧客への誠実さの間で板挟みになり、一人で悩み、心をすり減らしているエージェントのあなたに伝えたいことがあります。
「あなたがお客様を想うその誠実さを、どうか諦めないでください」
会社の目先の数字のために、自分の良心や人間性を殺す必要はありません。「お客様の利益を第一に考えたい」と願うあなたの葛藤こそが、不透明なこの業界を変えていく一番の希望なのです。
私たちが目指すのは、ノルマ先行の考えや顧客の奪い合いからあなたを解放し、あなたの専門性、人柄、そして誠実な仕事ぶりが正当に評価される場所を作ることです。
Agent Connectとともに売上という過去の数字ではなく、「信頼」という一生の財産で評価される時代を創り上げていきましょう。
ノルマに追われる営業マンではなく、人生に寄り添う真のパートナーとして。 志を同じくする皆様と共に、この不動産業界の誇りと信頼を一緒に取り戻しませんか?

<代表プロフィール>
名前:冨谷 皐介(とみたに こうすけ)
生年月日:1969年8月10日
出身地:北海道小樽市
趣味:バイク、映画鑑賞
休日の過ごし方:読書、YouTubeでプロレス鑑賞
過去に経験したスポーツ:スキー、水泳、マウンテンバイク
座右の銘:知行合一、至誠而不動者 未之有也


